暫定龍吟録

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パンダ名考

 上野動物園にやって来たパンダ2頭の名前が今日(2011年3月9日)決定した。

東京・上野のパンダ、日本名決まる オス「リーリー」 メス「シンシン」 - MSN産経ニュース

東京・上野動物園が中国から借り受けるジャイアントパンダのつがい2頭の日本名が9日、決まった。オスが「リーリー」(力力)、メスが「シンシン」(真真)。都などが名前を公募していた中から審査の末に選ばれた。


パンダの中国名はオスが「比力(ビーリー)」、メスが「仙女(シィエンニュ)」。


都は、2頭の来日にあわせて日本名を公募したところ、4万438件の応募があった。選定委員会で応募数の多かった名前100点を対象に選考を実施。オス・メス各4点の名前を最終候補として審査し、「リーリー」(応募数は359件)、「シンシン」(同127件)に決まった。
 決定理由は、「リーリー」が活発で力持ちのイメージ、シンシンは「純真」「天真」などの優しいイメージだった。



 1月に名前の公募があって以来、どんな名前に決まるのだらうと思ってゐた。

 東京動物園協会がパンダの名前を公募してゐたときに、「サクラ」とか「ソラ」といった大胆な名前を応募してゐる人がゐて、ちょっと気になってゐたのだ。
 上野動物園の歴代のパンダたちの名前はみな、初代カンカン、ランランから始まって最近のリンリンに至るまで、同じ音の繰り返しである。

カンカン
ランラン
ホァンホァン
フェイフェイ
チュチュ
トントン
ユウユウ
シュアンシュアン
リンリン

 いづれも中国っぽい名前であり、そこにいきなり「サクラ」とか「ソラ」といった日本人のやうな名前が出てくるのは私は違和感があった。

 実際に「サクラ」(メス)と「ソラ」(オス)は、40438件の応募の中から最終候補の4点に残ったらしい。因みに最終候補に残った4点の名前はこちら。

オス
 リーリー(359件)、
 ヨウヨウ(226件)、
 ゲンキ(216件)、 
 ソラ(128件)

メス
 サクラ(817件)、
 シャンシャン(270件)、
 シンシン(127件)、
 ミライ(66件)
 
(参照:UENO-PANDA.JP

 この中に明らかに日本人っぽい名前が4つある。「ゲンキ」と「ソラ」と「サクラ」と「ミライ」だ。「ゲンキ」や「ミライ」は漢語を聯想させるからまだしも、「ソラ」と「サクラ」は完全なる和語だ。

 なぜ今回このやうな"日本っぽい"名前の応募がたくさんあったのだらうか。
 1月に名前の公募があったとき、たしか私の記憶では、東京動物園協会は「日本での名前を募集」としてゐたはずだった。ところが、多くのマスコミがこれを「日本名を募集」と伝へた。
 「日本での名前」と「日本名」ではニュアンスが違ふ。「日本名」と聞けば、「日本っぽい名前」「日本人っぽい名前」を考へる人もゐるだらう。

 しかし今回のパンダの来日が、中国から東京都への「寄贈」ではなくて「貸与」であることを併せ考へても、やはり私は中国っぽい名前がよいと思ってゐた。

 だから中国名の「ビーリー(比力)」と「シィエンニュ(仙女)」のまゝでもいいと思ってゐた。たゞし、「仙女」の読みは、マスコミでは「シィエンニュ」で統一してゐるやうだが、これでは多くの日本人は「しーえんにゅ」と読んでしまふだらう。本来の中国語の発音に近い「シェンニュ」もしくは「シェンニー」と表記するのがいいだらう。

 「しーえんにゅ」だと長くて呼びにくい。「びーりー」は日本語で「最下位」を意味する「びり」を聯想させる。といったやうな理由で日本での名前が新たに募集されたのかもしれない。

 「リーリー」「シンシン」といふ名前は、中国名の「ビーリー」「シェンニュ」に似せてゐる意図が伝はってくる名前だ。

 ところでパンダの漢字名の読みは面白いもので、オスの「力力(リーリー)」は日本語では「リキリキ」と読むのが普通だ。一方、メスの「真真(シンシン)」は中国語読みでは「ジェンジェン」だ。オスは中国語読み、メスは日本語読み。子どもたちが親しみやすい、あるいは語感が可愛らしい読みの方を選択してゐるのだらう。


 こゝまで、上野動物園のパンダについて書いてきたが、和歌山の動物園のパンダには、また違った名付けの伝統があるやうだ。

永明(えいめい)
梅梅(めいめい)
良浜(らうひん)
雄浜(ゆうひん)
隆浜・秋浜(りゅうひん・しゅうひん)
幸浜(こうひん)
愛浜・明浜(あいひん・めいひん)
梅浜・永浜(めいひん・えいひん)
海浜・陽浜(かいひん・ようひん)

 名前に「浜」が付いてゐるのが多いのは、白浜町といふ町の名前に由来してゐるのだらう。例へば「永浜」を「ながはま」とは読まずに「えいひん」と音読みしてゐるのは、やはり中国っぽさを意識してゐるのだらう。
 こゝでも、「梅浜」は普通に日本語読みすれば「ばいひん」のはずだが、「梅」を「めい」と中国語読みしてゐる。
 難しいのは「良浜」で、これは日本語読みなら「りょうひん」で中国語読みなら「りゃんびん」のはずだが、これで「らうひん」と読ませてゐる。「らうひん」の名前の由来を調べてみたが分からなかった。

 あと、気付いたのは、上野動物園のパンダが基本カタカナ表記なのに対して、和歌山のパンダは漢字+ひらがなで表記されることが多い。これは、和歌山のパンダは日本生まれが多いから、その分少し「日本っぽい」のだらう。






(おまけ)
世界を駆けるパンダ。

PANDA 1/2「PANDA! PANDA! PANDA!」


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さくら市からネーミングの問題を考える

 今年も桜の季節が来た。
 
 ところで桜と言へば、栃木県に「さくら市」といふ名前の市がある。平成の大合併で誕生した新しい市である。氏家町と喜連川町といふ二つの町が合併してできた。
 でも、なんで名前が「さくら市」なんだらう。

 調べてみれば、なんでも地域内に桜の名所があるからだと言ふ。しかしそんな安易なことで日本人全員にとつての国花である「さくら」を名付けてよいものだらうか。

 そんなことを言つたら、私の家の近所の公園も桜の名所である。どのくらゐ名所かと言ふと、シーズン中の花見客の数が200万人近くに達し、日本一、いやひよつとしたら世界一かもしれない。だからと言つて、区が「さくら区」などと名乗つたかといふとそんなことはない。

 さくら市のHPによれば、「勝山城址の桜・鬼怒川堤防の桜堤、県道佐久山・喜連川線の桜並木・お丸山公園の桜など」が有名なのだと言ふ。これらの桜の名所はたしかに栃木県内では有名なのかもしれないが、全国レベルで見れば私の近所の公園の方がはるかに知名度が高いはずだ。

 こんな不遜な名前が簡単に付けられてしまふことを憂へる。ネーミングは大事。

 私の住む東京都にもふざけた名前の市区町村は存在する。「西東京市」だ。こゝは「東京都」ではあるが「東京」ではない。東京ではないのに東京を名乗つてゐる。「東京の西隣りだから西東京だ」と言へばたしかにさうだが、このやうな大きくて有名な街に寄生したやうな名前は、まるでアイデンティティが感じられない名前だ。愛知県にある「北名古屋市」も同じ。名古屋市に寄生してゐる。

 「北九州市」といふ名前の市もある。九州は元来、鹿児島・宮崎・熊本などを南九州と呼び、福岡・佐賀・長崎あたりの地域を北九州と呼んでゐたが、福岡県内の一部の地域が「北九州市」を名乗つてしまつたために、福岡・佐賀・長崎あたりを指す呼称が使へなくなつてしまひ、「北部九州」などと変な言ひ方で呼ばなければならなくなつた。
 かういふのは尊大なネーミングである。「四国中央市」も同様。

 合併したときはその地域に古くからある地名を付けるのが望ましい。「さいたま市」は元来、埼玉ではない地域が埼玉を名乗つてしまつた悪例。

 ネーミングと言へば、今、墨田区に建設中の「東京スカイツリー」といふのも、あれはもうあの名前で決まりなのだらうか。ネーミングのセンスがなんだか田舎者的な感じでとても残念だ。2年前にもブログに書いたけれども(新東京タワーの名称を考える)、あれは「押上塔」でよい。フランスの塔でさへ、「エッフェル塔」と「塔」で呼ばれるのに、日本の塔が「ツリー」などと呼ばれる謎。といふより恥。

 名前は大事なのだが、“民意”を反映しようとして公募したり多数決で決めたりしても、だいたいろくな名前に決まらない。少なくともネーミングにおいては「みんなの意見は案外正しい」とは限らない。

 それだけにネーミングの問題は難しい。識者が適切な名前を付けてしまつた場合がよいこともあるだらう。一度付けてしまつた名前をさうさう簡単に変更できないだけに悩ましい問題でもあり、慎重に考へなければいけない問題でもあるのだ。

新東京タワーの名称を考える

 2012年、東京都の墨田区に“新東京タワー”が完成する予定だ。
 
 東京人の私は、この新東京タワー建設案が発表されたとき、建設に反対した。今さら日本一高い建物が建つて喜ぶなんて田舎者ぢやあるまいし。当初は、さいたま市なども建設候補予定地に入つてゐた。私は、さいたま市に決まればいいなあ、と思つてゐた。東京にこんな無用の長物は要らない。すでに港区に「東京タワー」があるのに、なぜ今さら新たにもう一つタワーを作らなければいけないのか。テレビのデジタル放送に対応するため、と言ふが、港区の東京タワーをちよつと延伸すれば対応できる、といふ話ではないか。
 しかし計画は決まつてしまつた。もう建設工事も進んでゐるらしい。

 そこへ、新東京タワーの名称候補決定のニュースが飛び込んできた。3月19日、有識者10名による『新タワー名称検討委員会』が、一般投票で募つた18606件の名称案の中から候補を選定したらしい。
 この無用な建物がすでに建設中ならそれが建つてしまふことはあきらめるよりほかないが、それならせめて名前だけはマシな名前をつけてほしい。東京人として黙つてはゐられない。
 決定した名称候補は以下の6つ。

・東京EDOタワー
・東京スカイツリー
・みらいタワー
・ゆめみやぐら
・ライジングイーストタワー
・ライジングタワー

 検討委員会の座長で、元東京都副知事、明治大学大学院教授の青山やすし氏は、「品格のある日本を代表する」名称といふことで選んださうだ。しかしながら、この6案には「品格」は感じられない。

 「みらいタワー」なんて、まるでどこかの地方都市に新しく建てた建物のやうな名前ではないか。どこにでもありがちな凡庸な名前でこれほどつまらない名称はない。

 「ゆめみやぐら」も駄目だ。なんか「海ほたる」と似たやうな発想だな。「夢見櫓」ならまだ解るが、なぜわざわざ平仮名にしてゐるのか。

 「ライジングイーストタワー」と「ライジングタワー」は、ともにこれはなぜ英語なのか。「日本を代表する」にふさわしい名前をつけるならば、英語はをかしいのでは?

 「東京スカイツリー」も問題がある。検討委員の一人で作詞家の阿木燿子は「オリジナリティー」と言つたらしいが、オリジナリティーを言ふならば、この地域“ならでは”の名称でなければなるまい。だが、「東京スカイツリー」は頭の地名を挿げ替えればどこの地域でも通用してしまふ名前だ。札幌に塔が建てば「札幌スカイツリー」、大阪に塔が建てば「大阪スカイツリー」、福岡に塔が建てば「福岡スカイツリー」…、といつた具合に。よつて、この名前も駄目。

 この6案の中で一番マシなのは、「東京EDOタワー」だ。なぜなら、この塔が建つ押上・業平橋地区はその昔、まさに「本所」、「向島」と呼ばれた「江戸」の市街だからだ。だから6案の中では、これが一番オリジナリティーとアイデンティティーがある名称だと言へる。たゞし、「江戸」を「EDO」とローマ字表記にしてゐるのは意味がわからない。普通に「江戸タワー」でいいだらう。もしくは「江戸塔」。
 あと、頭に「東京」とつけるのは賛成できない。今の石原都知事は、「首都大学東京」とか「新銀行東京」とか、なんでもかんでも「東京」と付けるのが好きならしいが、「東京つ子」であつて断じて「江戸つ子」ではない私としては、「東京」と「江戸」はやはり峻別したいのだ。墨田区のあの地域はやはり「江戸」であつて「東京」ではない。

 以上、候補6案を批判、検討してみた。
 私個人としてこの6案以外の名称を考へてみるならば、単に「押上塔(タワー)」、「業平(橋)塔(タワー)」とするのがいいと思ふ。座長の青山氏は「歴史に残る、歴史的に使はれていく、名称を選ばなければならない」と言つたらしい。「歴史」を重視するならばその土地の古来よりの固有の地名を重視すべきではなからうか。
 「押上」は江戸時代以前からあるらしい由緒ある名前だし、「業平(橋)」は、かの有名な歌人、在原業平に因んでゐる、歴史を感じさせる名前だ。業平の有名な歌

 「名にしおはばいざ言問はむ都鳥我がおもふ人はありやなしやと」

が、この付近で詠まれたことに因んでゐる。検討委員の阿木氏は「ロマンやドラマが入つてゐる名前」にしたいと言つたらしいが、これほどロマンを感じさせる名前はない。

 しかしこの6案はもう決定のやうで、4月1日から5月30日までの間、この6案の中から一般投票を実施して決めるさうだ。

 残念ながらこの無用な建物は2012年頃に建つことが決まつてしまつてゐる。だつたらせめて名前だけでも東京にある建造物として恥ずかしくないマシな名前をつけたい。
 私と同じ東京人の皆さん、そして全国の皆さん、どうかこの建物が少しでもマシな名前に決まりますやう、ご助力をお願ひします。


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