暫定龍吟録

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桜雨

 東京は、夕方から雨がしとしとと降つてゐる。
 今日降るやうな雨を、

「桜雨(さくらあめ)」

といふ。桜の花の咲くころに降る雨のことだ。
 昔から「春に三日の晴れなし」と言つて、この季節は晴天が長続きせず、晴れたり雨降つたりの日々を繰り返す。
 日本では古来よりいろいろな表現で雨が喩えられてきた。「~雨」といふやうに語末に「雨」が付く形の言葉は、『大辞林』には実に187語も載つてゐる。日本では187もの雨が降るのだ。

 「桜雨」は英語で何といふのだらうか。"cherry blossoms rain"?こんな言ひ方で英国人は理解できるだらうか。英語に詳しい人がゐたら教へてほしい。

 ずつと待ち遠しく楽しみにしてゐた桜の花も、咲いたと思つたらこのやうな雨や風であつといふ間に散つてしまふ。せめて桜の咲いてゐる短い間だけは、雨も降らず風も吹かないでほしい、と思ふのは私だけであらうか。でも、4月に入つたある日に、強い風が吹いて、桜の花が桜吹雪となつて潔く散つていく姿に美を感じる人もゐる。それはそれでたしかに風情なのである。


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 今日、全国でもつとも早く東京の桜が満開になつた。近所に桜の名所があるので随分賑やかである。

 今日は、日本さくらの会が定めた「さくらの日」らしい。理由は「さくら」の「さく」が「39」で「3×9=27」だから。あるいは七十二候で今の時期がちやうど「桜始開」にあたるから、ともいふ。
 ところで季節を表す名称である七十二候は日本と中国で微妙に違つてゐて、日本の「桜始開」にあたる時期は中国では「雷乃発声」。遠くで雷の音がし始める、といふ意味だが、これは日本の季節感に合はないといふことで変へられたらしい。

 「桜(さくら)」の語源は、「語源由来辞典」によれば、動詞「咲く」に接尾語「ら」が付いて名詞化したものだといふ。

 芭蕉の句に、

「さまざまの事 おもひ出す 桜かな」

といふのがある。これは「まさにその通り」と思はせる句だ。日本人にはおそらく桜に対してさまざまな思ひ出がある人が多いだらう。これだけいろいろな思ひ出を去来させるのは、日本ではこの時期に年度の変はり目があるためかもしれない。

 桜と言へば、森山直太朗の「さくら(独唱)」といふ歌の中に、

「永遠にさんざめく光を浴びて」

といふ歌詞がある。光が「さんざめく」とはうまく表現したものだ。「さんざめく」とは「さゞめく」が転じたものだが、辞書によれば、「さゞめく」に比べて「浮き浮きと騒ぎたてる」といふ意味があるらしい。つまり、楽しいといつた意味合ひがあるのだ。光が楽しく騒ぎたてる、何だか目に浮かぶやうだ。
 
 芭蕉から直太朗まで、日本人は昔(特に近世以降)から桜を大切に思ひ、そしてまた桜にいろいろな思ひを乗せて歌つて来たのだ。
 このバラ科サクラ属の落葉高木が、私もまた好きだ。


森山直太朗 「桜」



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