暫定龍吟録

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2009年11月の記事

ヴェイユと現代

simoneweil


 先日、フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースが亡くなつたといふニュースが世界中に流れ、ネット上でも多くの人が話題にしてた。このニュースを耳にして、亡くなつたことに対する驚きよりも、歴史上の人物と思はれてゐた人が「まだ生きてゐたのか」と驚いた人も少なくなかつたやうだ。無理もない。100歳といふ大長寿だつたのだから。

 ところで、私がこの訃報を聞いて思ひ出したのは、夭逝の思想家シモーヌ・ヴェイユのことだ。
 レヴィ=ストロースが100歳、ヴェイユも今年が生誕100年だから生きてゐれば100歳。同じユダヤ系フランス人の現代思想家で、同じ年に哲学のアグレガシオン(1級教員資格)に合格してゐる。これほどの共通点を持つた人物が他にゐるだらうか。

 それなのに、二人の注目度はあまりに違ひ過ぎる感がある。
 レヴィ=ストロースが、こゝ日本でも構造主義の祖などとして多くの人に認知され話題にされてゐるのに対して、ヴェイユは知る人も少なく話題にのぼることも少ないやうに見える。
 たつたの2ヶ月ほどしか違はずに生まれてきたこの二人の稀有な秀才の注目度の差は何なのか?長生きした者と早世した者との差?それとも思想家としての実力の差?

 34歳の若さで亡くなつた彼女の生涯と思想に、もつと脚光が当たつてほしいと思ふ。いや、むしろ現代の日本社会においては、もつと注目されて然るべきなのではないか。
 格差社会や労働環境の問題、雇用の問題等々、斯様な問題が取り沙汰されてゐる現代日本においてこそ、ヴェイユの思想はもつと顧みられてよい。
 “異端”な感じを匂はせるところが敬遠されるのだらうか。“考へる”だけではなく“行動”の人であつたヴェイユ。その“激辛”も、私には現代に甦るべきスパイスのやうに感じられる。

 できることなら、ヴェイユの思想の一端でもこのブログで紹介したいが、哲学や西洋思想に門外漢の私には到底できない話だ。だからかうやつて、生誕100年のメモリアルイヤーに、レヴィ=ストロースだけでなく、こんな人もゐましたよ、とブログで紹介するのがせめてもの私にできること。

 この記事を読んで、少しでもヴェイユに興味を持つた人のために、本の紹介をしておかう。
 岩波文庫から出てゐる『自由と社会的抑圧』もいいが、個人的には、

 シモーヌ・ヴェーユ『重力と恩寵』春秋社

が装丁も素敵でオススメかと。(と、門外漢の私がオススメするのも変だが)。

 残念ながら私にはヴェイユの思想を読みきるだけの読解力がないので、誰かが彼女の著作を読んですばらしい評論を書き、彼女の名が世の耳目を集めるやうになることを密かに期待してゐるのだが。
  
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となりの高村さん

 となりの高村さんのところに行つてきた。

となりの高村さん
<↑写真クリックで拡大>

 高村さん家は、ウチの隣りではないが、まあ近所だ。

 10月31日から千駄木の旧安田楠雄邸にて「となりの高村さん展」が開かれてゐる。

 「となりの高村さん」とは、明治時代の高名な彫刻家、高村光雲一家のことである。上野の西郷さんの銅像などを作つたことで知られてゐる。
 高村光雲や、その息子で詩人の高村光太郎の、彫刻作品や下書き原稿などが見ることができる。

 今回、「となりの」と銘打つてゐるのは、それだけ近隣の人々から親しまれてゐたといふ意味と、もう一つは、高村邸には現在も子孫の方が住まはれてゐるので、そこでは展覧会は開催できないといふ意味がある。それで、高村さん家のとなりの安田さん家で開くことになつた。ちなみに、この安田さんは、東大の安田講堂などで有名な安田財閥の人である。この旧安田邸は昔の趣を残した貴重な建物で、現在、ナショナルトラスト運動によつて保護されてゐる。

 実際、高村光雲は気さくな人柄だつたやうで、近所の人から届け物を貰つたりすると、そのお盆にさゝつと彫刻を施して返した、といふ話も残つてゐる。職人技である。
 在りし日の高村光太郎の写真も見たが、風格があつていい。『智恵子抄』で有名な光太郎の妻、智恵子も芸術活動をしてゐたことは今回初めて知つた。
 光雲の三男の高村豊周も鋳金の人間国宝。こんなすごい芸術一家が、明治から昭和初期にかけて、たしかに近所に存在してゐたのだ。

 その他、ご近所の人々がいかに高村さん一家を敬愛してゐたかがわかる資料がいつぱい展示されてゐる。

 今回の展覧会の眼目は、この高名な一家の気さくな近所付き合ひだらう。
 近年、近所付き合ひは、ますます薄れていくばかりだ。昭和前期の頃まであつた豊かな近所付き合ひの復活を願ふのは無理な願ひなのだらうか。

 まだ『高村光太郎詩集』をちやんと読んでないことを思ひ出した。私は高村光太郎さんの詩集を読まう。しかし、私が一人部屋に籠つて詩集を読み、過去の人とネットワークを架するといふのは、結局現在のご近所さんとの連絡を断つてゐるといふことなのだ。

 近所付き合ひには、縦の付き合ひと横の付き合ひがある。
 私は時間を超えた縦の近所付き合ひをしてみるつもりだ。

 
 となりの高村さん展
 2009年10月31日(土)~11月8日(日)
 午前10時30分~午後4時
 会場:旧安田楠雄邸(文京区千駄木5丁目20-18)
 入館料:大人1,000円/中高校生500円