暫定龍吟録

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2012年11月の記事

振り込め詐欺に騙されないことはできない

 振り込め詐欺の被害が相変わらず続いている。

 以下の図は、ここ5年間の振り込め詐欺の認知件数と被害額の統計をグラフ化したものである。
 平成20年から平成21年にかけては大きく減っているが、その後は横ばいが続いている。

sagi.png
(元データは警察庁ホームページより)

 振り込め詐欺事件のニュースがあるたびに「これだけ振り込め詐欺に注意しろって言ってんのに、まだ引っかかる人がいるんだね」と言う人がいる。

 テレビや新聞、銀行、区報などでさんざん振り込め詐欺への注意を呼びかけているのに未だに騙される人がいることに腹立ちを感じているのだろう。
 だが私は、むしろこういうことを言う人の方に腹立ちを感じる。「これだけ注意を喚起されてるのに、なんで騙されるかね」と言ってる人たちは「騙される奴はバカ。自分は騙されない」と思ってる。

 この「自分は決して騙されない」という根拠はいったい何処から来るのだろう。例えば振り込め詐欺事件の被害者が一様に「まさか自分が騙されるとは」、「自分は絶対に引っかからないと思ってました」と言ってることからも、これが何の根拠もない自信であることがわかる。皆、「自分だけは絶対に引っかからない」と言ってて騙されるのである。

 「ウチにもそういう電話がかかって来たことあるけど、騙されませんでした」と言う人もいるかもしれないが、それはその時はたまたま騙されなかっただけであって「今後も絶対に騙されない」とは言えない。

 詐欺というのは人間の心理の裏を突いている。騙されないということはできないのである。
 例えばTVでプロのマジシャンがマジックを披露する時、ゲストの芸能人が「絶対にトリックを見破ってやる」と意気込んで目を大きく見開いておきながら結局はマジシャンに見事に騙されてるのを何回も見たことがあるだろう。
 あるいは様々な錯視画像などによって人間の目が如何に騙されやすいか、ということもよく知られている。
 それでも何故かトリックを見抜けるような気がしているのは、そのトリックを知識として知っていることがあるからだ。錯視画像を見た時に「あ、これ知ってる。上の線の方が長いように見えるけど本当は二本の線の長さは同じなんでしょ」と。
 しかしプロのマジシャンが既知のトリックを使ってくることはあまりない。
 振り込め詐欺にしても、これでは既知の手口には対応できるかもしれないが未知の手口には対応できない。

 振り込め詐欺は日々新たな手口が開発されていて、犯人グループが私たちの知ってる手口で来てくれるとは限らない。
 被害に遭わないために振り込め詐欺の手口を学ぶ講習会のようなものも開かれているようだが、それも既知の手口の後追いでしかない。

 「劇場型」など今の振り込め詐欺の手口は複雑で多様化している。その複雑で多様な手口のすべてを覚えることも知っておくこともできない。だからと言って、「とにかく電話で『ATM』って言葉が出て来たら怪しいって思えばいいのね!」と言ってる人が時々いるが、こういう「一つ覚え型」もたいへん危険である。今はATMなどを使わない「振り込まない型振り込め詐欺」もあるので、こういう一つ覚えでは逆に他の手口を見落としてしまう可能性が高い。

 中高年のおばさんが、「こないだウチにもかかってきたわよ、振り込め詐欺の電話。会社の金を使い込んじゃったからどうのこうのって。だから私、『ウチにはそんな馬鹿な息子はいません』って言って電話切ってやったわよ」と「武勇伝」を語っているのを時々聞くことがある。本人は犯人を撃退してやった、と満足感を感じているのかもしれないが、犯人にとってはそんなことは痛手でもなんでもない。
 私は振り込め詐欺のような犯罪を「下手な鉄砲型犯罪」と呼んでいる。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」で1件あたりの成功率は低い。しかし電話番号などの情報が手元に大量にある。100件に1件、1000件に1件ぐらい成功すればしめたものと考えている。
 だからおばさんに電話をガチャ切りされたぐらいで別に精神的に参るわけでもない。犯人グループが本当に怖れているのは警察などに連絡されて自分たちに足がつくことである。だからおばさんが自己完結、自己満足でその場で一人で収めてくれているのは有難いことなのである。

 こういう武勇伝を語るのは、せいぜい次に友達に会った時だろう。しかし何週間も経ってから語っているようでは遅いのである。電話番号リストというのは何らかのネットワークで密な関係にあることも多い。そういう電話があった後すぐに交遊関係にある人たちにフィードバックすれば多少は役立つかもしれないが多くの人は自己完結で収めることで犯人を助けている。

 犯人グループは次々とステージを移す。被害に遭いそうになった人たちがじゅうぶんに速いスピードで情報を社会にフィードバックできれば奏功するかもしれないが、大抵は役所の広報宣伝カーが「最近、この地域で振り込め詐欺の電話が多発しています。ご注意ください」などとスピーカーで呼びかけ始める頃には、犯人グループはもうその街を離れ次のステージへ移動しているのである。

 息子を騙る犯人に騙されないために合言葉を決めておくとよい、と言われる。
 親が合言葉を決めておこうと言うので決めておいたのだが、以前、纏まった金が必要になったという内容の電話を親にした時、親がまったく疑わないのでこちらから「合言葉は?」と訊くと「合言葉?あれ、何だったっけ?」と。
 合言葉は電話をかけられた親の方から切り出さなければ意味がない。しかも、その決めた合言葉を忘れてしまっているという二重の過ちを犯している。

 では、親は愚かなのだろうか?
 親には実は自分の方から合言葉を切り出せないワケがあるのである。
 それはせっかく久しぶりに連絡してきてくれた息子に対して「本当に本物の息子なの?」と疑うことは息子の心を傷つけてしまうかもしれないから、親の心理としてできないのだ。いつもと声が少し違ったって、親である自分が信じてあげなくてどうする!という気持ちが働くのである。

 騙されないことなどできない。何人(なんぴと)も騙される。

 私は何年も前から「振り込め詐欺に騙されないことはできない」と言ってきた。こういう考えを以前、人に話したところ、「そっか!自分も騙されるかもしれないっていう心積もりでいれば騙されずに済むんだね!」と言われてがっくりしたことがあった。
 いやいや、騙されるんだって。
 なんでだろう。何なんだろう、この違和感。どうも多くの人たちの耳は「どうすれば騙されずに済むか」という話しか聞く用意がないらしい。「あなたは騙されます」という話には聞く耳を持たないようだ。

 もう一度言うが誰も騙されないことなどできない。私も騙される。

 この記事では「騙されないことはできない」ということを言いたかったので、ここで筆を擱いてもよいのだが、それでは釈然とせず不満が残る人も多いだろうから、振り込め詐欺の被害に遭わないためにはどうすればいいかということも最後に少しだけ書いておこう。

 それは「社会全体で振り込め詐欺の発生件数を減らす」というふうに考えることだ。

 例えば、国や地域によっては振り込め詐欺事件がほとんど無い地域もある。手口が知られていないはずはないのに事件が起きていない。このことは地域社会全体で振り込め詐欺を減らす時のヒントになるだろう。

 社会全体における振り込め詐欺の発生件数を減らせば、一人の人間が一生のうちに振り込め詐欺の被害に遭う確率も減じる。

 騙されないことはできないが社会全体で振り込め詐欺を減らしていくことはできる。




(2012/12/30追記)
 似たようなことを書いている方がいました。

竹内謙礼のアメリカネットビジネス訪問記 母親がオレオレ詐欺の被害者になりました。

オレオレ詐欺の被害にあった8割ぐらいの人が、「自分は引っかからないと思っていた」という自信のあった人たちらしいです。
ここからは、かなり独自の推測になってしまうんですが、僕はたぶん、このオレオレ詐欺は、「しっかりした人」ほど、引っかかりやすいのかなぁと思いました。


 こちらは、実際に被害に遭われた体験を元に書かれています。

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