暫定龍吟録

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2016年11月の記事

Decentralized化する世界

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 米大統領選でヒラリー・クリントンを倒してドナルド・トランプが選ばれた時、ビットコインの価格が高騰した。(と言ってもビットコインのそれまでの歴史から見れば小さな高騰ではあったが。)

 ビットコインとドナルド・トランプは相性がいい。ビットコインとドナルド・トランプには共通項がある。それは、"Decentralized(非中央集権化、分権化)"だ。

 ビットコインブロックチェーンについて語られる時、いつも"Decentralized"という言葉を聞く。トランプ大統領が口で言ってることをどこまで実行に移すかは分からないが、その思想もまたDecentralizedである。

 アメリカという国は今までも好き勝手やってきた。世界の各々の国や地域の実情は無視し、"Globalism"の名の下に「アメリカ流」のやり方や常識を押し付けてきた。しかしそれはアメリカを中心とした「世界」作りの一貫として行われてきた。21世紀は「パックス・アメリカーナ」の時代になると言われていた。その象徴とも言える言葉がGlobalismだった。Globalismはそれぞれの国、地域の文化、実情、常識、つまり都合を無視し、アメリカの常識を押し付けるものと斉しくなっていた。

 トランプもまたアメリカの利益のことばかりを考え、他の国々のことは慮っていない。そういう意味では「アメリカ流」を押し通そうとしている姿勢は同じだと言えるが、大きく違うのは、Globalismの流れにおいては、アメリカは「世界の警察」、「世界のリーダー」として自国の都合を押し通そうとしていた、ということだ。トランプはアメリカが世界の警察であり続けることは「負担(特に経済的負担)」であると考えている。

 "Decentralized"を日本語で「分散化」と訳すと、「だから、環境問題やテロとの戦いなどのグローバルな問題を世界の国々が少しづつ分担して解決を目指すのでしょう」と思われる。しかしここで言うDecentralizedは「分散化」と言うよりは「非中央化」である。


非中央化とは何か

 「非中央化」とは中央から離れるということである。では「中央」とは何か。

 中央とは地球温暖化問題やテロとの戦い、TPPなど、世界的に取り組まなければならない問題に取り組むときの枠組や組織である。国連やG8がそうだし、EUもヨーロッパの「中央」である。

 2016年、イギリスとアメリカという兄弟または親子のような関係にある二つの国が、それぞれ"Decentralization"の道を択んだ。Decentralizedには、メリットとデメリットがある。

 イギリスと対極的なのなドイツで、ドイツはずっとヨーロッパの“顔”としての役割を果たして来た。メルケルはドイツ国内の問題だけでなく、ヨーロッパ全体の問題についても責任を持って仕事をしてきた。温暖化問題などの世界的問題にも積極的に取り組んで来た。その結果、EU内におけるドイツの地位は高まり、発言力も大きくなった。今のヨーロッパには誰もメルケルのドイツには逆らえない雰囲気がある。

 一方、デメリットとしては負担が大きすぎる、ということが挙げられる。数年前のギリシャ問題のときも、「なぜウチらがギリシャの面倒をみてやらなければならないんだ」という国内からの不満の声がたくさんあった。国内の問題も山積みなのに中央(ここではEU)の仕事もしなければならない。イギリスは中央の仕事の負担軽減のために"Brexit"を択んだ。負担は軽減するが、中央における地位、発言力の低下、というデメリットがある。

 アメリカもまたトランプ大統領が中央から離れようとしている。真っ先にTPPからの離脱を表明したが、この先、地球温暖化対策やテロとの戦いなど、世界的規模で協力して取り組んで来た問題からも手を引いていくかもしれない。

 こうした動きは、政治の世界で「保護主義」、「孤立主義」などと言われるスタイルと似てくる。

 もっともアメリカの長い歴史においては、孤立主義的傾向を示す時代は長かった。第二次世界大戦後、「戦争のうまみ」が増すにつれ、アメリカは世界の中央に出て来た。父ブッシュ、子ブッシュ時代の戦争はパックス・アメリカーナの象徴のような出来事だった。だがその後、アメリカはだんだん中央から手を引いていくようになる。

 古代から戦争は領土の奪い合いだった。戦争に勝つと領土が手に入る、これが大きな動機だった。だが国と国との戦争からテロとの戦いの時代になり、肝腎の戦利品としての領土が手に入らなくなった。今問題になっているIS(イスラミックステート)などは国ですらない。テロは世界各地で予測不可能的に起こり、それに勝利したとしても、それは単に「テロを食い止めた」というだけで領土獲得のような“うまみ”はない。

 「ドナルド・トランプは内向きなのか外向きなのか」と問う人がいる。自国内の問題に関心を持っているのか、それとも対外的な問題に関心を持っているのか。だがその問いの立て方は正しくない。トランプは内にも外にも両方関心を持っている。今までどおり、いやそれ以上に「偉大なアメリカ」を対外的に誇示しようとしている。ただ、その方法がDecentralizedなのである。せっかく力を持っているのだから、中央を介さずに直接誇示したり圧力をかけたりしたほうが早いというわけだ。


P2P化する世界

 非中央化、脱中央化は、決していわゆる外交に興味がないということではない。トランプはアメリカとロシアとの間の問題は米露間で個別に解決しようと考えている。中国との間の問題、日本との問題、メキシコとの問題は、それぞれ米中間、米日間、米墨間で解決を図るべきことだと考えているだろう。こうした関係はとてもP2P(ピアトゥーピア)的だ。中央を介さずに当事者同士で直接やり取りをする。ビットコインもそうだ。中央銀行を介さずに両者間で価値の移転を実現する。

 ビットコインを支持する人たちのあいだには、「中央なんか要らない」という考え方の人も多い。だが中央には“うまみ”もある。ドイツの例のように中央での発言力が増す、というのも一つだが、そもそも中央は「世界に対してある程度のコントロールが効く」というのが大きなメリットである。「中央銀行はなくなる。ビットコインのような仮想通貨だけの世の中になる」という人もいる。もし今、日本から日本銀行がなくなったとすると、経済のコントロールは失われ(今でもコントロールできてるのか?という疑問はあるが)、日本という国の経済の安定性は失われる。

 一方で、トランプの思想は、P2P的な世界をよしとする人々との強い親和性を持つ。


中央の役割

 では、「中央」は要らないのか。中央なんか無くしてそれぞれ個別にやり取りを行えばいいだけなのか。例えば今の日本から日本銀行を無くして、それぞれでお金のやり取りを(日本銀行券を使用せずに)行えばいいのか。

 中央には中央の役割がある。中央の役割は全体の「コントロール」であり「調整」である。

 個別に、例えば二国間でやり取りをすれば強い方が勝つ。太平洋上に長く太い綱が横たわっていて、それを日米間で綱引きをすれば、それは強い方が勝つだろう。この場合の“強い”は必ずしも軍事力や経済力ばかりではないが。だが、その綱の真ん中が滑車のように中央に引っかかっていれば、日米間の綱引きにも“調整”がかかる。どちらか弱い方が一方的に負けてしまわないようにするのも中央の役割である。

 また、地球温暖化問題のような“グローバルな”問題も、中央が解決しなければならない問題である。(地球が温暖化しているかどうかという議論は今は置いておいて)、日本一国だけがCO2をいくら削減しても、他の国々が協力して足並みを揃えなかったのでは、こうした問題は解決しない。テロとの戦いにおいても、今やテロは世界のどこで起こってもおかしくない。「テロに優しい国」があったのではいつまでたってもテロは無くならないのは、タックスヘイブンなどと同様である。


日本の孤立化は「孤立主義」の孤立ではない

 日本の孤立化は、英米のそれのような自国優先のための孤立ではない。また自発的な孤立でもない。「国際社会の一員として恥ずかしくない責務を果たす」と言って中央に出て行ったら、アメリカが自宅に帰ってしまって中央でぽつんと一人になってる状態である。

 日本の首相はアメリカの大統領に翻意を促しTPPへの復帰を求めているがはたしてどうなるか。トランプが自国に引き籠もってくれたらまだいいほうで、実際には(おそらく貿易を中心とした)過酷な綱引きを今後はどの国もしなければならなくなる。

 「Decentralized化する世界」と言っても、「中央」が無くなるなどとは私は思っていない。中央は今まで通り在り続ける。ただDecentralizedの“動き”には注意しておかなければならない。

 Decentralized化が進む世界で日本は今後どうするのだろう。

 世界のリーダーとして存在感を増していくか、Decentralized化の流れに乗って日本国内に引き籠もるか、それとも中央の真ん中で「僕はひとりぼっちだ」と叫ぶのか。一つの進路が問われる局面に来ている。
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