暫定龍吟録

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誰が誰になにを言ってるのか

 先日、本屋で、森達也著『誰が誰になにを言ってるの?』(大和書房2010)といふ本を読んだ。やうな気がする。

 今調べてみたら、Amazonにも画像がなく、本人のウェブサイトにも紹介されてゐない(2010/2/23時点)ので、本当にこんな本が存在するのか不安になつたが、ともかく読んだはず。

 内容は、「テロ警戒中」、「特別警戒実施中」、「防犯カメラ作動中」といつた言葉が街の中に溢れかえつてゐることに「ちよつと多すぎぢやない?」と疑問を呈したもの。
 視点が面白く、また共感できる点も多々あつたので、つい読んでしまつた。
 森氏は映像作家といふことで、さうした現代日本の一情景を映し取つただけで終はつてしまつてゐるのが少し物足りなかつた。もう少し突つ込んだ深い考察がほしかつたのだが、それは期待しすぎだらうか。

 たしかに現代の日本には、かうした表示物が溢れてゐる。「気づかぬうちに増えてゐた」、「どうして誰も疑問に思はないの?」と著者は問題提起する。
 だが、私の記憶によれば、かうした表記は徐々に増えてきたといふよりは1995年を境にして突然増えた、といふ印象だ。私は昔から都内あちこちの高層ビルによく出入りしてゐたのだが、1995年を境に「特別警戒実施中」などの看板が増え、非関係者は高層ビルに自由に出入りすることができなくなつたのを覚えてゐる。
 1995年のオウム真理教事件がきつかけで、かういふ規制が厳しくなつたのだらうと思つてゐる。

 本のタイトルもいい。防犯カメラは一体、誰がなにを撮つてゐるのか。
 少し話がそれるが、以前私は、脱衣所の天井にカメラが設置してある銭湯に出くはしたことがある。隠しカメラと防犯カメラの違ひは一体何なのか。
 注意を促す表記や音声のアナウンスは一体「誰が」「誰に」注意を促してゐるのか。わかりにくいのだ。ものごとの主体は何なのか、目的語は何なのか。以前から感じてゐたモヤモヤを、森氏がすつきりと書き出して一冊の本にまとめてくれた感じだ。

 本書の言葉足らずな感じは、おそらく「皆さんも考へてみてください」といふことなのだらう。たしかにいろいろ考へさせられた。現代日本人は、かうした異常な空間に馴れてしまつてゐるのだ。そんな異常を異常とも感じない人は、問題提起だけがなされてゐるこのやうな本だと、「一体何が問題なの?」といふ一言で終はつてしまふだらう。

 私のこの記事もまた説明足らずである。気にかゝつた人は、本書を手に取つてみてほしい。