暫定龍吟録

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長谷川等伯「松林図屏風」を一人で見た話

今日のテーマは「あなたの故郷自慢♪」です。 自分の故郷の食べ物・観光スポット、むしろコアなスポット、何でもかまいませんあなたの故郷の「ここがいい!」そんなところを思いっきり自慢してくださいFC2 トラックバックテーマ:「あなたの故郷自慢♪」



 今日2010年3月19日は、画家、長谷川等伯が亡くなつて、ちやうど400年。

 長谷川等伯はご存知の通り、安土桃山時代に活躍した能登出身の天才絵師だ。中でも彼が描いた国宝の「松林図屏風」は水墨画の最高峰として夙に有名である。

 今年2010年が没後400年の記念の年に当たることもあり、国立博物館でも「没後400年特別展『長谷川等伯』」が開かれてゐる。

 この「等伯展」がすごい人気らしく、先日も入場者数が20万人を突破したといふニュースがあつたり、見てきた人のブログによれば、「朝10前で長蛇の列」「入館に80分待ち」「作品にも近づけない有様」「寿司詰め状態」だつたとのこと。

 ところで私は、この長谷川等伯の傑作「松林図屏風」を一人で見たことがある。「一人で見に行つた」といふのではなく、他の人の頭越しに見ることなく室内に一人きりの状態で見た、といふことだ。
 
 国立博物館は定期的に開催する特別展の他に平常展といふものがあつて、実は平常展でも入れ替へで国宝級の名品の数々が展示されてゐる。国立博物館は国宝級の名品をたくさん蔵してゐるから、平常展でもそのクラスの名品を目にすることができるのだ。しかも平常展ならば格安の通常料金で見ることができる。
 学生時代、国立博物館の近くに住んでゐた私は、よく平常展を見に行つてゐた。ある時、その平常展で等伯の「松林図屏風」が展示されてゐた。ほゞ開館時間と同時に中に入つた私は真つ先に国宝展示室に向かつた。
 そして出あつたのだ、等伯の松林図屏風に。室内には私以外に誰もゐなかつた。部屋の中央にある大きなソファにゆつくりと腰をおろし、私は作品と対峙した。それはまさに息を呑む迫力で、描かれてゐる松の林の中に吸ひ込まれていくやうな感覚を覚えた。あれは本当に贅沢な時間だつた。私は10分ぐらゐそこにゐただらうか。他の誰に邪魔されることもなく、世界的な名宝を一人だけで堪能してゐたあの時間、空間を今でも忘れない。



 しかし私はたゞの自慢話をするためにこんな話を書いたのではない。こんな贅沢は、私が東京の都心に住んでゐるから可能なのだらうか。私はさうは思つてゐない。もちろん国立博物館は東京(か京都か奈良か福岡)に住んでゐなければさう簡単に訪れられる所ではない。
 だが、地方には地方の魅力がいつぱいあるだらうと思ふのだ。私は以前、“それでも東京を選択しない”といふ記事を書いて、その中で地元を大切にする精神について語つた。東京ばかり見てないで地元の良さにもつと気づくべきだと言つたのだ。
 田舎には国宝も重文もない県もあるかもしれないが、その土地その街ならではの国宝級のすばらしい何かがきつとあるはずだ。それは別に文化財に限らなくてもいい。有形のものでも無形のものでもいい。“ならではの”といふところが重要だ。それが自分の郷土に対するアイデンティティになる。
 私だつて、たまたま国立博物館の近くに住んでゐたからそこを堪能しようと思つたのであつて、東京でももつと違ふ街に住んでゐたら別の楽しみ方を考へただらう。そしてきつとそこの近所のものを称揚してゐただらう。

 みんなもつと足下にある宝を見つけよう。よその土地や外国にばかり憧れてゐる人たち。そんな人たちが「私は自分の国のことを聞かれて何も答へられなかつた」と返り討ちに遇つて帰つてくるのはよくある話だ。東京に上京してくれば、まるで自分が県代表であるかのやうにお国のことを詳しく聞かれるし、外国に行けば、まるで日本代表であるかのごとく日本の歴史などを根掘り葉掘り聞かれたりするだらう。自分が県を代表してるつもりはなくても東京人から見れば、青森県出身者は青森県人だし、その後何年東京に住んでゐたとしても真の東京人ではない。エセ東京人づらをするぐらゐなら、地元のことを詳しく誇らしげに語れる人の方がずつとかつこいい。
 まづ足下、地元から。外の世界に目を向けるのは、後でいい。

 今日が長谷川等伯没後400年の命日だつたので、昔、一人で松林図屏風を見たときのことを思ひ出し、それに関連してこのやうな記事を書いた。