暫定龍吟録

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さくら市からネーミングの問題を考える

 今年も桜の季節が来た。
 
 ところで桜と言へば、栃木県に「さくら市」といふ名前の市がある。平成の大合併で誕生した新しい市である。氏家町と喜連川町といふ二つの町が合併してできた。
 でも、なんで名前が「さくら市」なんだらう。

 調べてみれば、なんでも地域内に桜の名所があるからだと言ふ。しかしそんな安易なことで日本人全員にとつての国花である「さくら」を名付けてよいものだらうか。

 そんなことを言つたら、私の家の近所の公園も桜の名所である。どのくらゐ名所かと言ふと、シーズン中の花見客の数が200万人近くに達し、日本一、いやひよつとしたら世界一かもしれない。だからと言つて、区が「さくら区」などと名乗つたかといふとそんなことはない。

 さくら市のHPによれば、「勝山城址の桜・鬼怒川堤防の桜堤、県道佐久山・喜連川線の桜並木・お丸山公園の桜など」が有名なのだと言ふ。これらの桜の名所はたしかに栃木県内では有名なのかもしれないが、全国レベルで見れば私の近所の公園の方がはるかに知名度が高いはずだ。

 こんな不遜な名前が簡単に付けられてしまふことを憂へる。ネーミングは大事。

 私の住む東京都にもふざけた名前の市区町村は存在する。「西東京市」だ。こゝは「東京都」ではあるが「東京」ではない。東京ではないのに東京を名乗つてゐる。「東京の西隣りだから西東京だ」と言へばたしかにさうだが、このやうな大きくて有名な街に寄生したやうな名前は、まるでアイデンティティが感じられない名前だ。愛知県にある「北名古屋市」も同じ。名古屋市に寄生してゐる。

 「北九州市」といふ名前の市もある。九州は元来、鹿児島・宮崎・熊本などを南九州と呼び、福岡・佐賀・長崎あたりの地域を北九州と呼んでゐたが、福岡県内の一部の地域が「北九州市」を名乗つてしまつたために、福岡・佐賀・長崎あたりを指す呼称が使へなくなつてしまひ、「北部九州」などと変な言ひ方で呼ばなければならなくなつた。
 かういふのは尊大なネーミングである。「四国中央市」も同様。

 合併したときはその地域に古くからある地名を付けるのが望ましい。「さいたま市」は元来、埼玉ではない地域が埼玉を名乗つてしまつた悪例。

 ネーミングと言へば、今、墨田区に建設中の「東京スカイツリー」といふのも、あれはもうあの名前で決まりなのだらうか。ネーミングのセンスがなんだか田舎者的な感じでとても残念だ。2年前にもブログに書いたけれども(新東京タワーの名称を考える)、あれは「押上塔」でよい。フランスの塔でさへ、「エッフェル塔」と「塔」で呼ばれるのに、日本の塔が「ツリー」などと呼ばれる謎。といふより恥。

 名前は大事なのだが、“民意”を反映しようとして公募したり多数決で決めたりしても、だいたいろくな名前に決まらない。少なくともネーミングにおいては「みんなの意見は案外正しい」とは限らない。

 それだけにネーミングの問題は難しい。識者が適切な名前を付けてしまつた場合がよいこともあるだらう。一度付けてしまつた名前をさうさう簡単に変更できないだけに悩ましい問題でもあり、慎重に考へなければいけない問題でもあるのだ。