暫定龍吟録

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ITの基礎を知るために読んでおきたい本

 最近読んだのが、『知っておきたい情報社会の安全知識』(坂井修一著・岩波ジュニア新書)といふ本。

知っておきたい 情報社会の安全知識 (岩波ジュニア新書)知っておきたい 情報社会の安全知識 (岩波ジュニア新書)
(2010/03/20)
坂井 修一

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 岩波ジュニア新書は子ども向けの本だと思って侮ってゐると、意外とかうした良書が出てることが多いので、時々チェックするやうにしてゐる。特に子ども向けに書かれてゐるからこそ、非常にわかりやすく書かれており、ある分野の入門書や教科書とするにはもってこいである。

 この本は、大人が読んでも十分読みごたへがある。といふより、むしろ、今インターネットを使ってゐる大人たちで、学校できちんと系統立ってITについて学ばなかった世代の人たちにこそ、この本は読まれたい。

 今の若い世代の人たちは、ちゃんと学校でITを基礎から習ってゐる。しかし上の世代の人たちはコンピュータもインターネットも使ひこなしてゐるとしても、それはほとんど独学で身につけたものである。だから意外と基礎がわかってゐなかったりする人は多い。

 以前このブログで、NHKの『「ネットに弱い」が治る本』を、「最高の教科書」として紹介したが、この本も、さうした「普段からネットは使ひこなしてゐるんだけど、意外と基礎的なことがわかってないんだよね」といふ人には、良い教科書になると思ふ。

 例へば、「ITは性善説によって作られてゐる」といふ本書の言葉は、さまざまなことを考へさせられる。ITによって齎されてるさまざまな問題が、ITの構造そのものが持つ「性善説」といふ性格に起因してゐるなら、その構造やインターフェースを読み解くことによって、私たちITの利用者がどのやうに構造に流されてゐるかの一部を自覚することにもなるだらう。

 また著者は、ITによる質感・量感の喪失、といふ重要な問題も提起する。私たち生身の人間が、さうしたことによってITにどれだけ騙されるのか、といふことについて、こゝから考察を深めていくこともできる。

 ITと言ふと、それを使ってどれだけ楽しいことができるか、といふことばかり皆考へがちである。さうした明るい未来ばかり説く『ウェブ進化論』のやうな本は好まれる。
 だが、ITが齎すマイナスの問題点について考察することは、もっとずっと大切なことだ。なぜなら、「楽しい」といふことは、「マイナスなこと、苦しいこと、不快なことが無い」といふことでもあるからだ。

 私はほゞ毎日、インターネットを通じていくつかの不快に出会ふ。「ぢゃあ、インターネットやめれば?」といふわけにはいかない。これからの時代、ますます多くのデバイスがオンラインに繋がっていく。もはやオフラインの孤高を守り抜いて生きるのは極めて難しい時代になってゐる。

 どうしたら、インターネットの不快を感じずに、ネット生活を送ることができるだらう。
 かうしたことは、ネット社会の作り手である大人たちが考へなければならない問題だ。その杜撰な試作品の犠牲になるのは、いつだってその時代の子どもたちなのだ。

 「面白さうだから、とりあへず作ってみた」。ネット大好き人間には、さういふ人間が多い。新しい世界の創造のためにはさうした好奇心も必要だ。だが私には、かうした発想が時に軽率な遊びに感じられる。
 大人たちの一時の遊びに振り回される子どもたち。例へば、キーボードの並びはなぜQWERTY配列にしたのか。ユニバーサルデザインからはほど遠い。日本語を入力するにはまったくの不自然な並び。学校でその不自然な並びのキーボードのタッチタイピングを学ばなければならない子どもたち。

 ITが齎すマイナス面にも目を向けよう。問題点を把握した上で、その問題点を克服する方法を考へなければならない。IT社会が楽しいものであるためには、不快は取り除かなければならない。
 そのための問題整理として、この本は役に立ちさうである。