暫定龍吟録

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今あらためて『古事記』を読む -『古事記』1300年-


超訳 古事記超訳 古事記
(2009/10/22)
鎌田 東二

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 18歳以前の読書体験に乏しい私が、高校時代に唯一通読した本がある。『古事記』だ。

 今日は旧暦1月28日。今からちゃうど1300年前の和銅五年(西暦712年)1月28日、『古事記』は書かれた。

 天武天皇が超絶記憶力の持ち主であった稗田阿礼(28歳)によみならはせてゐたものを、太安万侶といふ人が筆記した。

 上巻、中巻、下巻の三つに分かれてゐるが、上巻が一番おもしろく、次に中巻がおもしろい。下巻になると、誰々と誰々が結婚して生まれた子どもが誰々で、それがまた結婚して生まれたのが誰々で、といふ話が延々と続くだけで、歴史に興味ある人だったらおもしろいかもしれないが、さうでない者にとっては退屈である。

 『古事記』には、いろいろと興味深い話がいっぱいあるが、それを全部書いてゐると長文になりすぎるので、一つだけ私が一番気になってゐることだけを書いておかう。

 それは、『古事記』に見られる中国の思想の影響のことだ。

 序文でいきなり「陰陽斯に開けて」といふ言葉が出て来る。「陰陽」といふのは、中国の儒教、陰陽五行説の言葉だらう。また、「古を稽へて風猷を既に頽れるに繩し」といふ言葉が出て来る。「風猷」といふのは風教・道徳のことだが、「道徳」といふのもやはり中国の思想の影響ではないだらうか。
 
 そして、有名なイザナキとイザナミの結婚のシーン。女神イザナミから先に「あら、いい男」と言ったら結婚がうまくいかず、男神イザナキから言葉を発したら結婚がうまくいったといふのは、これは中国の「夫唱婦随」の思想によるものだらう。

 古代の日本人が「道徳」を説いてゐたり、プロポーズの言葉は男から発するべきだ、などと考へてゐたかどうかは疑はしい。

 『古事記』は中国の思想の影響を受ける前に書かれてゐたら、もっとずっと面白い物語になってゐただらう。私たち日本人のアイデンティティに繋がる日本神話に中国の影響が多分に入ってしまってゐるのは少し残念な気がする。『古事記』は十分に大らかな内容だが、中国の影響がなければ「道徳」だの「男が先」だのといった堅苦しさはなくて、もっと大らかだったのではないかといふ気がする。
 しかし、中国人に文字を教へてもらふまでは、その物語を書き記す手立てがなかったのだから、しかたのないことだったのかもしれないが。

 だが『古事記』はいろんな読み方ができる書だ。正式な歴史書である『日本書紀』よりも文学性に富んでをり、普通に物語として読んでも楽しい。
 『古事記』1300年にあたる今年2012年は、奈良県、島根県、宮崎県など『古事記』とゆかりのある県で、さまざまな催し物やイベントが企画されてゐると聞く。

 私はこの機会に埃をかぶってゐた『古事記』を引っ張り出してきて読んだ。かつて読んだことのある人も、まだ読んだことのない人も、1300年目の今年、『古事記』を読んでみてはいかがだらうか。


(関聯サイト)
神々の国しまね ~古事記1300年~ スペシャルサイト(出雲系の話が中心)(音注意!)