暫定龍吟録

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クリーニング屋のおばちゃんと個人情報

 「個人情報」がうるさく言われるようになってから久しい。

 世の中には個人情報にうるさい人とものすごく鈍感な人がいるが、私はどちらも問題だと思っている。鈍感すぎる人も敏感すぎる人も今の時代になぜこれほど個人情報がうるさく言われるのかが分かっていないという点では同じである。

 個人情報とは何かという話はまた別の機会に書くとして、今日は先日クリーニング屋で経験した個人情報に纏わる話を書こうと思う。



 近くのクリーニング屋は、となり街にかけて5~6店舗ぐらい展開している地域密着型の中小規模のチェーン店である。

 先日、初めてそのクリーニング屋に行ったときのこと。
 その店の60代くらいの店員のおばさんが「会員カードは持ってますか?10%割引きになりますけど」と言った。

 私「いえ、持ってません」
 
 おばさん「初めてですか?作りますか?10%割引きになりますよ」

 私「じゃあ、作ります」

 おばさん「では、これに記入をお願いします」

と言って差し出されたのは、手書きで書いてコピーして鋏で切ったような簡単な小さな申込用紙だった。名前、住所、電話番号、メールアドレスを書く欄があった。

 私が名前と住所とメールアドレスを書いて渡すと、おばさんは「あの、電話番号も・・・、何かあったとき連絡しないといけないので」。
 私はメアドを指さして「ここに連絡してください」と言った。

 おばさんは少し困った顔をして、別の先輩おばさん店員に相談しに行った。するとその先輩のおばさんがやって来て「お客さま、電話番号を書いていただかないと、もし何かあったときこちらから連絡しなければいけませんので」。

 私「いや、だからこのメールアドレスに連絡してくださいよ」

 おばさん「これじゃ駄目なんです。電話じゃないと駄目なんです」



 じゃあ何のためにメールアドレスを書かせたんだ、と食ってかかろうと思ったが止めておいた。

 見るからにパートのおばさんである。申込用紙に電話番号を書かない客など初めてだったのだろう。二人とも困ったような顔をしていた。
 そのおばさんに言ってもしょうがない。チェーン店全体の経営を統括している社長がいるだろう。その社長の方針のはずである。



 私も以前、会社で客に申込用紙に記入してもらう仕事をしていたことがあるから、この時代に個人情報を書いてもらう仕事の苦労は分かる。

 私の会社でもパソコンで作って印刷しただけの簡単な申込用紙だったが、しかし私の会社では申込用紙に記入してもらう個人情報は「名前」と「連絡先電話番号」の2つだけだった。

 たしかにトラブルやハプニングがあったときなど、こちらからお客さまに連絡しなければいけない事態が生じることがある。だからどうしても連絡先を聞く必要がある。

 このような申込用紙でよく見かけるのは、聞きすぎている紙である。

「お名前」
「ご住所」
「電話番号」
「携帯電話番号」
「FAX番号」
「メールアドレス」

等々。

 しかし、これだけたくさんの連絡先を聞くということは、店側にこれだけたくさんの手段を使った連絡義務が生じるということである。
 客からは「なんで携帯のほうに連絡してくれなかったんだ」、「なんでFAXで」、「なんでメールで」、「僕は日中は携帯には出られないからこっちの番号に電話してくれ」等々といったお言葉をいただくことになる。

 顔なじみの客もいるだろうが、あの人にはFAXで、あの人にはメールで、あの人には電話で、と人によって連絡手段を変えなければいけないのは、店側にとってはとても手間のかかることである。
 そして連絡がつかなかったら「なんでこの方法で連絡してくれなかったんだ」と言われるので、すべての連絡手段を一応試さなければいけない。

 私の会社では、申込用紙の個人情報に係る記入欄は「名前」と「連絡先電話番号」の2つだけと徹底していた。
 「電話番号」の下に「(携帯電話番号)」などと書いたりもしていない。電話番号は2つも書かせない。
 なぜ「電話番号」かと言うと、年配の客は携帯電話を持ってないという人も多い、逆に若い人で一人暮らしの人などは携帯電話は持ってるけれどイエ電は無いという人も多い、なので、「電話番号」と書いておけば大半の人はどちらかは持っているだろうということである。
 イエ電と携帯電話と両方持っている客がそこにどちらの番号を書くかは客の判断である。そしてその番号にかけて繫がらなかったら、それは客の責任である。もちろん「念の為に」と言って自分からその欄に2つの電話番号を書き込む客もいる。

 FAXやメールアドレスは持ってない人もいる。

 かと言って、「連絡先」とだけ書いておいたら、今ならTwitterアカウントなどを書く人もいるかもしれない。それはそれでやはり連絡手段が多岐化して店側としては面倒である。

 だから「連絡先電話番号」とだけ書いておくのである。



 私はそのクリーニング屋に、その小さな申込用紙に事細かに個人情報に関する取り扱い方針を書いておけ、と言うのではない。ウェブサービスでよく見かけるような「第三者には譲渡・開示いたしません」とか、「このサービスの利用目的以外の目的では利用いたしません」などとそこまで細かく書いておくことは求めない。

 ただ、「ついでに」などといった軽い感覚で不用意に余計な情報まで書かせるべきではない。余計な欄を設けるべきではない。そのおばさんたちに悪意はないだろうが、穿った見方をすれば、そのクリーニング屋はブラックな店と見ることもできる。

 現代にあっては、個人情報の聞き方、書かせ方にはもう少し熟慮あるべきである。


 結局、その時は電話番号も書いたけれど、そのクリーニング屋にはそれ以来行ってない。