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カンバーバッチが走る!映画『イミテーション・ゲーム』感想

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 たまには映画の感想でも。

 映画『イミテーション・ゲーム』を観て来た。
 めずらしく映画を観た。何年ぶりだろう。

 有名人の史実を基にして作られた映画なので、ネタバレも何もないと思うが、一応、まだ観てない人のために詳しいストーリー展開は書かないでおこうと思う。

 感想を一言で言うと、おもしろかった。

 感動的であり、特に後半からエンディングに向かって加速度的に感動が高まっていく。元々、感情的なタイプの私は最後は泣きそうになった。隣の席の男(※後出)の啜り泣く声が聞こえた。(ただの花粉症だったかもしれない。そう言えばチューリングも花粉症だった。)

 第二次世界大戦中に暗躍したイギリスの天才数学者、アラン・チューリングの人生をベネディクト・カンバーバッチが好演している。

 アラン・チューリングは、国からの依頼で、当時イギリスが戦っていたドイツ軍の暗号を解読するよう頼まれる。
 その暗号は「エニグマ」と呼ばれる超難解な暗号で「解読不能」と言われた。世界一の天才数学者チューリングが、その解読に挑む。

 絶対に解読できない暗号 v.s. 世界一の天才数学者

という構図だ。

 しかし私は数学的側面やエンターテインメント的側面よりも、歴史的側面の方が気になった。
 この物語はフィクションだとも言えるし史実だとも言える。しかもそう遠くない昔に実際に何万人という人が亡くなった、あの世界大戦の話なのだ。

 日本ではアインシュタインは有名だが、同時代に生きていたチューリングはそれほど有名ではない。
 それはチューリングの存在自体が戦後も長く、トップレベルの国家機密だったからだ。大正11年の来日時に熱狂的に歓迎されたアインシュタインとは知名度が全然違う。
 チューリングが為した仕事は英独戦の結果に大きな影響を与えた。ということは、ドイツと同盟関係にあった日本の戦局にも大きく影響しているということだ。
 私たち日本人にとって、決して「関係ない数学者」ではない。
 この映画をきっかけにしてもっとその名が知られればいい。

 映画の初めの方では、チューリングの“変人”ぶりが描かれる。だが、チューリングを主人公にしているだけあって、映画全体としてはチューリングを好意的に描いている。

 暗号解読の舞台となったブレッチリー・パークでの「挌闘」「死闘」の日々は、現代の私たちが使っているコンピュータに繫がっている。チューリングはコンピュータの生みの親でもある。その意味でも現代の日本人のほとんどはチューリングの影響を受けているのであり、「関係ない、昔の人」の話ではない。

 チューリング自身が、いわゆる「チューリング・テスト」を行う場面も描かれている。数学やコンピュータの歴史に興味がある人は、そういった観点からも楽しめるかもしれない。
 また、映画には欠かせない「恋愛」の要素も少しは描かれている。
 映画全体としては、壮絶な騙し騙されの世界で、いったいどっちが騙している側でどっちが騙されている側なのか、そうしたスリリングな感じも味わうことができる。

 この映画で一つだけ物足りないと感じたのは音楽だ。
 と言っても悪いわけではない。テーマ音楽は非常に高尚な音楽だ。だが高尚すぎて印象に残らなかった。もっと俗っぽい、歌詞があるような音楽でもよかったのではないか。この映画ではなんと言ってもチューリングが、と言うよりカンバーバッチが、全力疾走するシーンが印象的だが、そこをもっと盛り上げる音楽があればよかった。高貴ではあるが、スリリングさを表現したり興奮を盛り上げたりするには少し物足りない気がした。

 ポスターには「アカデミー賞最有力」の文字があったが、実際には作品賞も主演男優賞も獲らなかった。
 しかし、私はこの映画がアカデミー賞を獲らなくてよかったと思っている。このような“政治的な”映画が、現代の政治の思惑に利用されることは望ましくない。アカデミー賞を獲らなかったことで初めて安心してこの映画が「おもしろい映画」だったと言える。
 
 ところで、映画が始まる前にトイレに行ったら、自分とまったく同じ恰好をした男に遭った。
 背恰好も似ていて服装が丸かぶりだった。
 恥ずかしいので、開場するまでこの男からはなるべく離れたところにいよう、と思った。
 開場時間になって指定の席に座っていると、しばらくしてからその男が入ってきて、私のすぐ隣の席に座った。これだけ広い映画館でよりによって隣の席・・・。
 同じところで買った服なんじゃないか、と思うぐらい上も下も完全にかぶっていた。

 はっ! イミテーションゲームか。






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