暫定龍吟録

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お茶汲みは女性の仕事だった! 〜男女雇用機会均等法施行30年〜

 以前、長く職に就けない時期があった。受けても受けても落とされる日々が続いた。

 来る日も来る日もハローワークに通って、求人票を見、少しでも条件が合えば履歴書を書いて送っていた。

 体力に自信がない私は事務の仕事を中心に探していたが、結果は「百戦百敗」という有り様だった。九割は書類銓衡で落とされ、たまに珍しく面接まで行くこともあったが、面接はほぼ100%落ちた。

 ある日、いつものように通い慣れたハローワークに行き、いつものように自分の条件に合いそうな何件かの求人票を印刷して、ハロワ職員のところに相談に行った。

 その日はいつもと違う職員でベテラン風の女性職員だった。

 私「今日はとりあえず、この4件、応募してみようと思うのですが」

 職員はざっと一通り四枚の紙に目を通して、「こっちの2社は応募してみてもいいと思いますよ」

 私「あ、残りの2社はダメですか?」

 職員「うーん、ダメではないですけど、、、」

 私「私には合ってないですか?」

 職員「合ってないというわけではないですが、、、どうしても応募したいですか?」

 私「一応、出すだけ出してみようかと」

 職員「んー、出しても無駄かもしれませんよ。もちろん、どうしても応募したいなら履歴書を送ってみてもいいと思いますし、止めませんけれども」

 私「望み無しですかね?」

 職員「いえ、ほら、ここに『お茶出し』って書いてあるでしょ」 

 確かにその2社は仕事内容の欄に「お茶出し」と書いてあった。私はその職員が「あなた、お茶出しなんかしたくないでしょ?」と言いたいのだと思った。

 私は、それまでの長い無職期間に何度も「無職は仕事を選ぶな!」という言葉を聞いてきた。いろんな人がそう言っていたしネットでもたくさん目にしていた。

「無職は甘ったれてる!」、「選ばなければ仕事なんていくらでもあるはず」、「仕事を選んでるのが悪い」、「今は不況の時代なんだから、『どんな仕事でもやります!』っていうぐらいの意気込みで臨まないと」。

 だから私はお茶出しだろうがなんだろうが自分にできることなら何でもやるつもりだった。それに、お茶出しくらいは、以前の職場でもやっていた。別に苦手ということもない。お茶を淹れるくらい誰にもできることだ。むしろ、主な仕事内容が「お茶出し」なら、それほど忙しい職場ではないのではないか。お茶出しをしていて給料が貰えるなら有り難いくらいだ。

 採用さえしてくれるのならどんな仕事でも頑張ってやるつもりだった。「こんな仕事は自分には合わない」とか、そんなことを言うつもりはまったく無かった。

 だから、

「お茶出しでもなんでもやります!」

とキッパリ言った。

 すると、その職員は

「いえ、そうじゃないんですよ」

と言って、ほんの数秒考えて、

「しょうがないですね。では、これは、あなたにだけはお話ししておきましょう」

と言って、あらためて深く座り直した。

「ご存知の通り、今は雇用にあたって男性、女性ということで差別をしてはいけないことになっています」

「はい」

「ですが、男女雇用機会均等法が施行されてからもう長いこと経ちますが、残念ながら雇用の現場では、男性のみ採用とか女性のみ採用という企業はまだまだなくなっていないのです」

「はい」

「でも法律があるから『男性のみ採用』とか『女性のみ』とは求人票には書けない」

「はい」

「でも事務職では、女性を採用したいという企業は多いんです。だから仕事内容欄に『お茶出し』『お茶汲み』と書いている。つまり、これは暗に『うちは女性しか採る気がありませんよ』っていう意味なんです」

 ええええええええええええええええええ!!!!!

 この時の私のショックは「え」を何回書いても足りない。

 椅子から転げ落ちそうになったと言ったら大袈裟だが、転げ落ちはしなかったが、目の前が真っ白になる感じがした。

 今まで、何十通、何百通と応募してきた求人票の、いったい何割に「お茶出し」と書いてあったのだろう。

 わからない。そこはあまり意識していなかった。

 求人票でよく見るところは、「勤務地」と「仕事内容」の欄。「仕事内容」では、パソコンのスキルとか英語の「TOEIC何百点以上」とか、そういうところを主に見ていた。だが、「郵便物の封入作業」とか「顧客からの簡単な電話対応」とか「書類のファイリング」とか「社内清掃」とか、そういう特別なスキルが要らないものについては、それほど注意を払っていなかった。「電話は苦手」とか「糊や鋏を使うのは苦手」などと言っていたら応募できるものなんてほとんど無くなってしまうからだ。

 だから「中国語での客とのやり取り」とか「◯◯のプログラミング言語が書けること」とか、明らかにスキル的に自分には無理、と思えるところだけを注意して見ていた。

 でも、言われてみれば、「お茶出し」と書いてあった求人票もたくさんあった気がする。過去に応募して落ちてきた求人票は取っておいてないので今となっては分からない。

 ああ。

 そんなことはもっと早く教えてほしかった。

 履歴書一枚書くのでも結構たいへんなのだ。誤字も許されず丁寧に書くから時間もかかるし。それに私のような無職の貧しい人間にとっては、証明写真の700円や封筒の切手代だって結構きびしい出費なのだ。

 それなのに女性しか採用する気のない会社に、少し口角を上げた笑顔の写真の履歴書をひたすら送り続けていた私。がんばって考えて書いた志望動機も経歴も資格も特技も自己アピール欄も、何も読んでもらえず、写真を見た瞬間に「なんだ男か」と言って破り捨てられていたのかもしれない。

「お茶出し」、「お茶汲み」は「女性のみ採用」という意味の符号。覚えておいてほしい。

 本当は「符号」だから、あまり大っぴらにしてはいけないのかもしれないが、今もハローワーク等に通って就職活動をしている人はたくさんいるだろう。そうした人たちに私のような思いをしてほしくないと思い、男女雇用機会均等法施行30年の今日、ここに書いた。