暫定龍吟録

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コンピューター将棋が人間を超える日

 5月3~5日、千葉県木更津市において、「第18回世界コンピュータ将棋選手権」が開かれた。

 優勝ソフトは「激指」、準優勝は「棚瀬将棋」、3位には一昨年一躍有名になつた「Bonanza」が入つた。
 事実上の決勝戦となつた「激指 対 棚瀬将棋」戦は、棚瀬将棋のまさかの時間切れ負けで、激指の劇的な優勝となつた。棋譜を見てみたが、途中までは棚瀬将棋がかなり優勢に対局を進めてゐたので、2位になつた棚瀬将棋も、激指に劣らぬ強さを持つてゐると言へると思ふ。

 コンピューター将棋ソフトの棋力は、年々格段に強くなつてきてゐる。今年も大会後に人間対コンピューターのエキシビションマッチが行はれた。激指がアマ名人の清水上徹さんと、棚瀬将棋が朝日アマ名人の加藤幸男さんと戦つたが、いづれの対局もコンピューター側が勝つた。

 これはかなり衝撃的なニュースだ。アマ名人と言へば、ほとんどプロ棋士に遜色ない実力を持つた人だ。そんな強い人がコンピューターに負かされたのだ。今回は持ち時間15分、とコンピューター側にやゝ有利なルールだつたこともあるが、それにしてもアマ名人に勝つのは並大抵のことではない。

 一昨年、Bonanzaが勇名を馳せたころから、コンピューターがプロ棋士を倒す日は近いのではないか、といふ話が急速に現実味を帯びてきた。私もさう思ふ。アマ名人を倒せれば、プロ棋士だつて倒せる日はさう遠くないはずである。
 だが、さう簡単に人間側が負けることはない、と考へてゐる人もゐるやうで、例へば、プロ棋士の渡辺明竜王は、次のやうに言つてゐる。

一発勝負ならプロに勝つ可能性が十分にあるレベルにはすでに達している。コンピュータは確かに強くなった、でもトッププロに迫るにはまだかなりの時間がかかると私は予想している。(『ボナンザVS勝負脳』より)


 また、同著の中でかうも言つてゐる。

コンピュータに人間が敗れるというのは、私も含めた上位の棋士たちがみな十番勝負で3勝7敗とか2勝8敗の成績になるということ。ソフトの開発者たちはいずれそうなると思っているようだが、私にはとてもそうは思えないのである。


 渡辺竜王ほどの人がかう言ふのだから、人間がコンピューターに負ける日を心配することはないのだらうか?

 ところで、この中で渡辺竜王が、「トッププロ」とか「上位の棋士」といふ言葉をよく使つてゐるのが気になる。私はプロにトップも下位もないのではないかと思ふ。コンピューターがプロの下位クラスの人を倒したら、名人を倒す日は1年以内に来るだらうと思ふ。だが、渡辺竜王は、いはゆる「たゞのプロ」と「トッププロ」は違ふ、と考へてゐるらしい。その根拠は何なのか。

 私は、将棋ソフトがどのやうなプログラムで動いてゐるのかさつぱりわからない。けれども、もし、それが、人間のプロ棋士の過去の定跡を覚えることで力が上達してきたといふなら、その手本が人間である限り、コンピューターは人間の最高位を超えることはできない、といふことなのだらうか。
 しかし、コンピューターの強さは、定跡のデータベースだけではない。何億通りもの手を読むといふ力技(ちからわざ)が、その強みとしてある。厖大な定跡のデータベースに力技を加味するならば、やはりコンピューターが人間のプロ名人を倒す日も来るのではないだらうか。

 オセロの世界では、すでに人間がやる気が失せるほど、圧倒的にコンピューターが強い。チェスの世界でも世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏は、コンピューター「ディープ・ブルー」との歴史的な一戦で、途中でやる気が失せたといふ。
 オセロやチェスで起こつたことが、将棋で起こらないとは考へにくい。今に人間のやる気が失せるほど圧倒的に強い将棋ソフトが現れるだらう。最近の将棋ソフトは、従来のやうに「浅く広く」読むばかりではなく、「狭く深く」読むこともできるらしい。昔から「大局観の無さ」が指摘されてゐるコンピューターだが、大局観が無くても、プログラムや思考法のちよつとした改良でそれもカバーできるのではないか。

 将棋はチェスとは違ふ、とたしかに思ひたい。取つた駒を使へるから、局面変化の数が極端に多いのだ、と。しかし、今回、コンピューターが人間のアマ名人を倒した、といふ事実は、つまりコンピューターが目指すべき到達点をもう見つけてゐる、といふことなんだと思ふ。今はまだ、その到達点には達してゐなくても、目指すべき地点が見つかつてゐるなら、そこに到達するのは時間の問題なのだらう。

 私は“その日”が7~12年後くらいに来ると予想してゐるのだが、どうだらう。


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